妻が帰国したので出会い系を始めてみた

幾分かの語弊を孕みつつも、妻帰国に伴い(広義)出会い系を始めてみた。誰かと会話のない生活というのはこれ程までに思考を停滞させ活力を削ぐものかと妻帰国後3日目にして痛いほど実感し、何とかして会話相手を探したかったワタナベ青年の脳裏にはまず街へ繰り出すことが過ぎるが、日本ですらナンパ経験のナの字にも触れたことのない童貞予備軍こと私が一体この未知の土地のどこで、誰に、どんな風に声をかければ良いかなど皆目検討もつくはずがない。そして次の瞬間お約束と言わんばかりに現代っ子っぷりを発揮することになるつまり片手に収まっているスマホおいて猛烈にググる・アプリを落とすという時間帯に突入する。今回試したのは以下3アプリだ。

 

Tinder:言わずと知れたマッチングアプリの金字塔。

Azar:世界中から自動的にマッチングが行われ突然見知らぬ人とのテレビ電話が始まる暴力的通話アプリ。

Lonely:Azarの音声電話版。ユーザーは99%日本人という印象。

 

レビュー①Tinder

事実として全くマッチングが実現しない自分にとって、Tinderはもはやマッチングアプリというより新たな暇つぶし体験に近い。facebookinstagramで見知らぬ人の写真アルバムを徘徊する行為をよりサクサク感アップでお届け!という印象で、マッチングなどその追加的要素に過ぎない。会話どころか契機となるマッチングにすら至らず哀しみに暮れるものの、数多の写真を右へ左へと選別しているうちにそこに存在する女性がいくつかのセグメントに分けられそうだったのでついでに観察してみた。まず大分類として1. 大衆迎合型、2. 自我貫徹型、3. 意図不明型の3つが確認できた。

 

大衆迎合型はユーザーの大多数を占める一大勢力であり、所謂「盛れてる」写真をプロフィール画像として採用している人たちだ。男ウケを狙った写りの良い写真を選んだり、パーティー会場×黒ドレスのような広く世間で「イカしてる」と認知された舞台設定を用意することが多く、いずれにしても価値判断の基準が当人内面よりも文化、流行、社会の価値基準といういうような外的要因に依存していることが見て取れる。この大衆迎合型はさらにcute - cool軸とface - body軸で四象限に分割ができる。

cute×face群は日本人にとって恐らく最も馴染みが深い。所謂「可愛く盛れた顔面写真」を掲げる層だ。イメージで言えばCanCamの表紙。外国人の場合、無垢な笑顔の人がここに分類される。

cool×face群は日本に少なく外国に多い層の典型であると言えよう。イメージはVOGUEの表紙。純ジャパワタナベからするとどうしてそんな不愉快そうな顔面をしているのだろうという不思議の炸裂を止めることができないが、リアルフェイスにこそ真の造形美ありという価値観があるのかも知れない。

cute×body群は全身を背景の一部に収めながら「私はこの場所・環境を楽しんでるよー!」と体現している写真を言う。多くの場合cute×faceとセットで出てくることが多い。

cool×body群はエロさを際立たせる。胸の谷間やすらっとした立ち姿に焦点を当てることが多い。やはりcool×face写真とセットでの出現が多い。

悲しいことに僕の写真は悲しいことにいずれの層からも悲しいことにlikeを得ることはできていない悲しいことに。

 

続いて2. 自我貫徹型であるがこれは圧倒的に独自の世界観を解き放っている。価値基準を自己外に置いて「あなたの望む姿に近づきます」というメッセージを発する大衆迎合型に対して、毅然として自己の価値観を放出し「私の好みを理解し、共感できるのならついておいで」と自らのポジションを確立している。例えば自分の作品と思われる彫刻たちと戯れる写真が連なるアーティスト。例えば体の彫り物一つ一つを紹介し最後に本人登場かと思えば中指を立てて舌を出しているアウトローヒッピー。様々なニッチを垣間見るにつけ、自分のようなノーマルオブノーマル人間がそのようなレア人間に出会う場として出会い系も悪くないなと思ってしまう。マッチしないけど。

 

最後に3. 意図不明型。マジで意味が分からない。因みに猫の写真や真っ黒写真なども時折遭遇するがこれは釣りもしくはアプリを利用する意思なしとして今回の3分類からは除外している。意図不明型はそれなりにアプリを活用しようという意思が垣間見えるにも関わらずなぜその写真を選んでいるのか理解に苦しむ層だ。例えばめっちゃ半目の女性。例えばめっちゃ首の下から鼻の穴を覗く形で写っている女性。彼女らの複数枚の写真が全てそのコンセプトで一貫していれば自我貫徹型として解釈できるものの、問題は2枚目3枚目の写真が至って普通でありながらも何故か一番目立つ1枚目の写真を敢えてミステイクにしか見えない写真で飾っていることだ。彼女らの意図もめっちゃ気になるところだがいかんせんやはりマッチしない。

 

レビュー②Azar

驚くほどハードルが高い。なにせチュートリアルも何もないまま「まずスワイプしてみよう!」のポップアップに誘われるままスワイプしたらいきなり知らないおっさんの顔面がドーン出てきてテレビ電話が始まるのだ。しかもあろうことか驚きのあまり無言で半口開けてたらおっさん何も言わず鼻で笑って切りやがった。このショックたるや、ボクシング界の不正と老舗家具屋の凋落と医学部界の不正が一挙に纏めて襲いかかるような衝撃だ。アンインストール一歩手前の心の折れっぷりだったがこれも経験と再度奮起する。今まで知ってたマッチングアプリでいうところの顔確認→マッチング→テキスト交換→通話の流れのうち前半全部すっ飛ばしていきなりテレビ電話が始まる。インターホンもノックもドアガチャもなくいきなり人ん家の中にワープして登場みたいな感覚。何この次世代高速お見合いアプリ本当怖い。

人見知りの壁をなんとか打ちこわし何人かとの通話を重ねると、普段自分が話せないような人と予期せず出会え、話を聞けることがめっちゃ面白いと知る。自分は今日中東の看護師、鳶職、南米の学生などと話すことに成功したが、何より面白かったのは隣国のおっさんとの会話だ。いま自分のいる国は政治的に隣国とギクシャクしており、その隣国のおっさんと偶然マッチし意見を聞くことができた。意見と言っても「お前は〇〇に住んでるのか?〇〇は好きか?俺は大嫌いだ!!!」という発言を繰り返すばかりで生産的な対話は皆無だったが、普段住む分には何不自由なく、周りの人も親切でいかなる危険も感じることはないため、ある種新鮮かつ客観的な視点を与えてもらった。

英語でしかコミュニケーション取れないと知るや否や通話を切ってくる現地人も多くいたため逆に無料で語学学習をするには幾分か使えるかもしれない。なお20人ぐらい通話したが全員男性だった。

 

 

レビュー③Lonely

日本のアプリはダメ。露骨な出合い目的の男がハイエナのように群がるばかりでアプリ本来の目的である「暇な時間に話し相手を見つける」ことが超困難。こちらの声を聞いた瞬間切られるということが何十回と続いた時は小学生の頃公衆電話からひたすらテレクラにいたずら電話を繰り返したときの記憶が蘇ったがそうこうする内にようやく大阪の高校2年生と話すことに成功した。ハイエナの中からシンバを見つけた。高校2年生。なんと無垢なことか。この夏家族で富士山に登る予定らしい。なんと健気なことか。彼もこのアプリをちょうど昨日始めたばかりということで体験を聞いてみたが、同じく声を聞いて切られる案件がほとんどだそうだ。挙げ句の果てに唯一マッチングした女性は電話の向こうでいかがわしい声を上げていたらしく「怖くなって初めて自分から切りました」と彼は言っていた。なぜそういう性欲モンスターをハイエナにあてがわずシンバを谷底へ突き落とすようなことをするのか。そんな怒りとともにシンバへのユーザーヒアリングと最近の高校生事情を聞きあさり気付けば20分が過ぎていた。

 

いつもより長くなってしまったのでこの先の思考展開は控え今回はレビューに留めておこうと思う。続きが気になる人も気にならない人も僕と電話してください孤独で死ぬ。そして僕の自由な実験をいつも微笑んで抱擁してくれる妻には頭が上がらない。