インスタ芸術点

偶然たどり着いた海沿いの空間が貝殻で有名な国立公園だったようで、青空・地中海・貝殻絨毯という響きだけはサマーバケーションな三点盛りへと予想外にも身を投じることとなった。ジャリジャリと貝殻ロードを一通り歩き回り、海・貝・鳥・人の写真を撮るなどして小一時間ほど堪能した。

 

帰路の車内で「疲れたでしょう。運転変わろうか?」と気遣いの言葉をかけてくれる妻に対して「大丈夫、面白い話をしてくれたら家まで元気に運転できるから。なんかスベらん話ちょうだい。」とパスを渡すと「えーじゃあ今日の写真をインスタにあげたいからその文章を考えて。候補10個出してね。はいスタート!」とパスの威力が10倍になって返ってきた。冷静になると「面白い話して」という投げ掛けに対して「じゃあインスタの文章考えて」という返しのすれ違い具合に気づくことができるが、両手に握るハンドルへと認知機能を幾分か割いていたワタナベの脳に満足な容量は残っておらず、フレンドパークの勢いさながらにはいスタート!の合図で猛烈に10個の候補を挙げ始めた。件の写真を貼っておくので皆さんならどんな文章を添えるか想像しながら読んで頂くのも面白いかもしれない。

 

f:id:liquorshopshin:20190224054833j:plain

件の写真

 

  1. 貝。私は貝の上にいる 海。海は私の側にある 空。私は空の下にいる

「終わり?なんなのそれ?」

「ポエムだけど」

「もういい次」

 

2. 貝殻を 集めてかえる 地中海

「今度はなに?」

「川柳だよ」

「もう詠むの禁止」

 

3. Seashells on a seashore

「それは?」

「英語の早口言葉から引用」

「次」

 

4. 本日は地中海に来ました😆 天気予報はあいにくの曇りでしたが綺麗な晴天になりラッキーな週末!偶然通りかかった海沿いの公園で可愛い貝殻をたくさん発見したので思わずパシャり。暖かくなったらまた来たいな~☺️

「多くを語るキラキラ垢ver.」

「わかった次」

 

5. 貝殻☆

「多くを語らないキラキラ垢ver.」

「まだ半分だよ」

 

6. #地中海#貝殻 #おしゃれさんと繋がりたい #写真好きな人と繋がりたい #ファインダー越しの私の世界 #旅行好きな人と繋がりたい #タビジョ#ファッション #いいねした人全員フォローする

「自分で言いながら鳥肌立ってきた」

「アレルギーだね」

 

7. 🐚🏖❤️

「個人的には好感が持てる寄りのキラキラ属。たまに巨大地雷も紛れ込んでるイメージ」

「はい。次」

 

8. 本日コーデ (ブランドタグ付け)(ブランドタグ付け)(ブランドタグ付け)

「キラキラにもいろんな技があるね」

「私今日の服どこで買ったか忘れちゃった」

 

9. 旦那さんは鳥を撮って、私は貝を撮って

「突然どうしたの」

「冷静な現実描写パターン」

「わかった、次最後だよ」

 

10. 今夜はカレー♪

「時間軸を現在からズラした現実描写パターン」

「お疲れ様でした。結果は私の投稿を見ておいてね」

 

10個を挙げている最中はランダムに思いついたものを口から出すばかりでそれ以上の工夫といえば連想ゲームのように「他のポエムっぽい投稿」「他のキラキラ垢っぽい投稿」を探すことぐらいだった。しかしいざ数が揃ってくると面白い発見がある。投稿写真と投稿文の内容との関係性には幾つかのパターンが見出せそうなのだ。

 

例えば4.の多くを語るパターンは投稿写真に対して投稿文章の持つ情報量が圧倒的に多い。もはやそのコンテンツはブログと大差ない。ブログからそっくりインスタにコピペしたと言われても納得できる内容だ。一方で5.の多くを語らないパターンでは言葉の力によって投稿写真の情報を削ぎ落とし閲覧者の注目を写真の一部分へと向けさせる。特に見て欲しいのはここだよー!と訴えかける。

 

個人的に好きな投稿はその中間、写真と文章が対等な関係にあるパターンだ。尚且つ、写真に収められた瞬間を絶妙な切り口で言葉に落とし込まれた日には、そのバランス感覚に芸術性すら覚え悶える。大喜利でいえば「写真で一言」、インスタでこれを体現しているのはご存知麒麟の川島氏だ。とは言えここでの芸術性とは必ずしも笑いだけに限定しない。例えば1.や2.のポエムは写真の世界観とは対等に近い気がする。が、いかんせん言葉遣いと空間の切り取り方がイケてない。1.のポエムは2つの対象の関係性を静止状態のまま羅列しているだけでどこか味気ないし、2.のポエムは動きが付いている分マシかもしれないが表現が古臭いのと「貝殻」「地中海」という直接的な言葉遣いがイケてない。

 

上記を鑑みると9.は一番好みに近いかもしれない。夫婦二人の動きや好みがシンプルな文章から感じられ、場の雰囲気がありありと思い描ける。ただし貝の写真に添える文として「旦那さんは鳥」から始まっては若干写真の世界観を逸脱すると言わざるを得ない。ゆえに写真文章間のバランスという観点では今一歩というところだろう。旦那さんという単語をよりフェアなニュアンスの夫に書き換えると「夫は鳥を撮って、私は貝を撮って」となる。仮に表現の観点で及第点だとしても、なんとなく夫婦仲がバラバラだという後ろ向きな印象を持ちかねないため意味合いの観点で不採用かもしれない。

 

心の赴くままに10例を挙げ、見切り発車で一部をセルフ添削してみたが存外面白かった。自分の好みを再発見できただけでも今日は良い日だったと言える。どれだけ満足のいく投稿をできるかやってみるまで分からないが、今日からワタナベはインスタのセルフ芸術点を上げる努力をしてみようと思う。それでは最後に妻の結果を見てみよう。

 

f:id:liquorshopshin:20190224054808j:plain

 

好き。写真の内容と文章の内容、ドンピシャで一対一。良い。貝殻が敷き詰められその上に自分が立っている様子を「絨毯」という言い換え。良い。「貝の絨毯」ちょっと表現が幼稚、「貝殻絨毯」ちょっと字面が重い、「貝殻の絨毯」まあアリ、「seashell carpet」スッキリする上に英語表記もそこまで鼻につかない。ベスト。

こうして今日も「わかってるね~ポイント」が妻へと加算されたのであった。