100通りの愛してるを伝えた結果

クリスマスですね。突然だが皆さんは愛する人に愛を伝えているだろうか。

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今日はこの人に100通りの愛してるを伝えた結果を記します


「いえ~~~~~~〜~い 君を好きでよかった」

「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに君が好き」

「本気なんです 本気で好きなんです」

 

古今東西様々な愛の伝え方がある。「好き」という直接的な表現に抵抗がある人は月が綺麗と言ってみたり、甲子園に連れてってと言ってみたり、フィルムは用意したよ一生分の長さをざっと115万キロと婉曲的に伝えてみるのも良い。それすら躊躇する口下手さんは幽霊に化けてロクロを回すと効果的かもしれない。言葉でも、言葉以外でも、愛の伝え方は無限大だ。

ワタナベは最近、愛する妻に100通りの愛を伝えた。クリスマスの浮かれた風が「其の方の!やむごとなき様見てみたし!」と煽ってくるので結婚歴3年28歳男性の等身大をここに召しておきたい。

 

「現代ってどこか物寂しいよね、SNSで簡単に人と繋がれる割に、そこにあるのは触れ合いというよりむしろ殺伐とした空気だし。本当にぬくもりのあるやりとりって、手に入れるのが難しくなってるね。もっと安心感があって、ポジティブな気持ちになれる空間を作りたいなあ。例えば愛する人からのラブメッセージだけをやりとりできるアプリがあったら嬉しいかも。」

 

ほーん、確かに。でもそれだったら、アプリに頼らずとも勝手に始めれそうやん。

というわけでワタナベはこの雑談を耳にした日を境に、早速妻へとラブメッセージを送りつけ始めた。

 

オフィスから家へ帰る車の中、ボイスメモアプリを起動し、妻に対する愛を滔々と述べる。容姿のこと、性格のこと、最近起きた出来事のこと、ありとあらゆる角度から、毎日のように妻を愛で倒し、褒め倒す。ハンドルを握りながら3,4分の愛を囁き、編集なしで送り付ける。ぶっつけ一発録り、これが毎日の帰路のルーティンとなった。

 

「何となく思い付きで始めただけだから、特に気にせず、時間あるときに聞いて。聞かなくても良いよ。感想はいらない~」

 

ひとまず100日に至るまでは一方的に送り続けようと決めた。恥ずかしさもあって、感想を聞くのは先伸ばしにしたかった。リアクションがなくとも、継続する理由は十分にあった。ルーティンを始めて早々に気付いたのだが、ラブメッセージは送る側も幸せになれるのだ。自分の愛する人の、愛おしい要素に思いを馳せ、それを言語化して伝えるのだ。僕の脳内がお花畑状態になることは皆さんも想像に難くないだろう。

 

元々口数の少ない妻は、オンラインでも発言は多くない。次第に僕らのLINE画面は異様な光景を見せ始めた。

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見方によっては激しいストーカー被害の証拠

 

一向にフィードバックのない妻と、飽きることなくボイスメモを送り付け続ける夫。危険な香りがするので念のため確認したことがある。

 

「嫌だったり、迷惑だったりしてない?」

「うん、してないよ。」

 

それさえ分かればよい。ワタナベは安心して相変わらず無反応な緑色の壁に向かって愛を囁き続けた。そもそもだが、ラブメッセージ放射器と化したこの28歳男性は妻の前に立つと想像を絶するボキャ貧と化す。口をついて出るのはいつも

 

「すき~~~(^.^)」

「かわいい~(^.^)」

 

の2単語だ。ちゃーん、はーい、ばぶー、と3つもの語彙を操るイクラちゃんにすら劣る、乳児もびっくりの退行具合だ。そんな口下手にとって、大人語で「すき」の内容を伝えることは自分の価値観を再確認でき、妻に対する「すき」をより深く享受でき、イクラ先輩へと一歩近づき、追い越し、更には妻に対してポジティブな感情をもたらせるかもしれない(少なくとも嫌な気持ちにはしていない)という何重にも価値のある行為だった。

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イクラ先輩からの守破離過程


先週この愛の囁きが100をカウントした。いよいよ妻に感想を聞く世紀の瞬間の到来だ。新たに相互理解を深めるチャンスにわくわくし、緊張が走る。もし突拍子もない感想をもらったら、ズッコケーでブログのオチにしよう、と邪な考えもよぎる。

 

そして、結局、感想を聞くのはやめておくことにした。今回は恥ずかしさが理由ではなく、皆さんに「は?」と言われそうな理由が1つと、「は?????」と言われそうな理由が1つあった。

 

「は?」と言われそうな理由

一度でも「嬉しい」とか「これからも楽しみにしている」といった感想を受け取ってしまったら最後、それが継続するモチベーションにも、そして言い訳にもなり得てしまうと感じたのだ。ポジティブな感想を直接聞くことで、将来僕が「あの時君がああ言ったから、良かれと思って続けたんじゃないか!」「僕は毎日のように気持ちを伝えてるのに、君といったら!」という押しつけがましい人格を表出させてしまう可能性を生んでしまうのだ。(そんなこと言いだす姿はとても想像つかないと妻に言われたが、可能性としてゼロではない。)

あくまで僕が勝手に、誰に頼まれるでもなく続けているという前提が重要で、これを貫くためにも感想を聞くのは避けておこうと思ったのが1つ目の理由だ。

 

「は?????」と言われそうな理由

世の中には一方通行だからこそ完成する美しさがあると思う。相手がどう思っているか分からないからこそ、うーんうーんと自分の感情と向き合い、愛を言葉の形に削り出して、ときに流暢に、ときにギクシャクと伝える過程に、純粋さが担保されることってあるように思う。

狙ってやってる感が出てしまってはお終いなのだ。こういうこと言われるの、嬉しいやろ?というスタンスが1ミリでも滲み出てしまっては、もうそれは僕が伝えたい純粋な愛ではなく、異物混入状態の感情なのだ。

例えば相手は体型を気にしているが、あなたはそんな相手の体系が大好きという場合、忖度して言葉を選ぶこともできるだろう。でもここでは「あなたのその体系が好き」と純粋な気持ちを伝えるのが僕の正解なのだ。愛を伝える行為は、受け取り手のことを鑑みない、ある種自慰的な活動だ。そのとき対峙すべきは相手の反応ではなく自分の心だ。(だから「こんなこと言われても嬉しくないもしれないけど…」と申し添えることはたまにある。)

ということで自分の感情の純度を保つためにも、感想は聞かないことにした。夫婦の相互理解はまた別の機会に譲ろうと思う。

 

「…だから結局感想は聞かないことにしたよー」と言う僕に対して、あろうことか妻は一言感想をこぼした。

「うーん、いつも沢山褒めてくれるから、恥ずかしくなっちゃうな。」

 

天才がここにおったわ。なにその100点の答え。そういうところが好き。

ということで、今か今かと妻のリアクションを待ちわびた28歳はゴールを迎えた途端、やっぱり知らない方がいいや、と掌を返す結末を見た。しかし、だからこそ、これからも純粋な気持ちを言葉にし続けられそうだ。明日の帰り道はどんな愛してるを伝えよう。