どっかの国で生きる

祈ることが得意です

不思議file10: 五島列島の洞窟で隠れキリシタンの無念を晴らした話

五島列島と言えばかつて隠れキリシタンの活動した地として知られており、この場所に出張が入った時点で何かしら裏ミッションが発生するのだろうと覚悟していた。当初はただ当時の信者に対するリスペクトを込めてどこか所縁のある地で花を手向けようぐらいに考えていたが、結果的に因縁渦巻く洞窟に行き着き中身をごっそり浄化する高カロリー修行となった。

 

三日の滞在期間のうちの一日目、出会う人出会う人に隠れキリシタンに所縁ある場所について聞いて回ったところマリア観音なるものの存在を知らされた。聞けば島内のとある洞窟内にかつて隠れキリシタンが祈祷した場所がそのまま残っているという。外見は観音様だがその中にマリア像を収納していることから通称マリア観音と呼ばれていた。

 

ガイドブックに載るような教会とは異なりマリア観音だけは当時の名残りが原液のように残っている異質な雰囲気を放っていた。修行者として無視できない場所だった。

 

反面、情報は極めて乏しかった。その存在を教えてくれた人も具体的な所在地までは把握しておらず、島民に聞いてもそもそも存在すら知らないという人が多数。手に入ったのは島の全体地図とそこにプロットされた大雑把な点のみで、さながら世界地図を見ながら東京から京都に向かうようなものだった。

 

まあ行けば何か分かるやろ。

 

与えられた猶予は仕事前の早朝3時間。静かな五島で車を走らせる。地図上の点の近くは車道が1本しかなかったため目を凝らせばそれらしき場所が見つかるはずだった。ゆっくり周囲を観察しながら山間地を抜け、集落を抜け、森の中に入り、海へ出た。あれ、海へ出てしまった。どうやら通り過ぎてしまったようだ。

 

来た道を戻る。今度はもっと慎重に地図とナビを見合わせながらゆっくり進む。海から森へ入り、集落へ出て、山間地へ入り…どうやらまた通り過ぎてしまった。

 

一度停車して考える。地図上の点とGPSの点は一致している。空気を掴むようにマリア観音だけがするすると通り過ぎてしまう。今回はご縁がなかったということだろうか。仕事の時間が迫って来る。大人しく退散すべきか。目の前の集落に平家が4軒ほど見える。朝支度の湯気らしきものが上がっている。退散前にやれることはやり切ろう。

 

こうして始まる決死のピンポン作戦。1軒目、留守。2軒目、留守。3軒目、セールスお断りとデカデカと掲げられた脇のインターフォン。今更躊躇などしていられない。息を止めて押し込む。中から物音。ガラッと開いたドアの向こうには怪訝そうな表情の老女。

 

すみません、観音様を探しているのですが・・・

 

あぁ!?

 

あ、えー、観音様を・・・

 

ああ、観音様。

 

途端に老婆の表情が明るくなり饒舌になる。セールスはお断りでも観音様ビジターはウェルカムのようだった。おっしゃる言葉は2割ぐらいしか聞き取れなかったが、戻ってバス停を見つけたら左、ということだけは分かったので平身低頭お礼を伝えてそのキーワードだけを頼りに車を再出発させる。戻ってバス停を左。今思えばその集落がかつての隠れキリシタンと何かしら関係があっても不思議ではない。そう思うぐらい親切な人当たりだった。戻ってバス停を左。

 

自信ないながらも「戻って」の方向に行ってみるとバス停が見つかり、路肩に車を停めて歩いてみると確かに「左」へ入る歩道があった。胸を撫で下ろしながら奥へと足を進める。早朝から車を飛ばした甲斐があった。朝から民家をピンポンして回った甲斐があった。お婆様ありがとう、なんとかここまで来れました。しっかりご挨拶して帰ります。

 

ついに洞窟に到着し中を覗く。奥にマリア観音が見える。見えるには見える。だがその手前に気になるものが見えすぎる。当時の隠れキリシタンの因縁がめちゃくちゃ渦巻いており洞窟の中がハリケーン状態だった。マジか、ここに来て収まってないパターンなのか。知らぬふりして帰るわけにもいかず覚悟を決める。責任をもって浄化させていただこう。しかしストーンヘンジで宇宙人を救出した時のような小道具を持ち合わせていない。裸装備で立ち向かうしかない。

 

やむなく徹底的な護身を我が身に施し決死の覚悟で洞窟内に飛び込む。渦巻くハリケーンを自らの身に絡め取るようにして見えない世界の大掃除。祝詞をガンガンに回しながら残らず掬い上げていく。初めは物々しい空気だった洞窟内と周囲の森が祈祷の終盤から清々しいそれに変貌していく。そのままハリケーンごと洞窟の外へ出て天上へとお還し。祈祷が終わるとあたり一面が安らかな静寂に包まれた。

 

奇しくもその日は7月7日。祈祷の途中には七夕にまつわる祝詞も上げながらの浄化作戦となった。どれだけ強い愛であっても因縁に囚われたら成就には至れないのだとしみじみなる帰り道だった。

不思議file09: 娘の心臓に神様の部屋が見つかった話

次女がまだ1歳にも満たない頃、高熱が数日間続くので病院に行くとなんとかウイルスだとかで入院という運びになってしまった。当時まだコロナの煽りを受けて院内の出入りは厳重に規制されており、お見舞いは同時に一人まで・夜間の宿泊は不可ということで寝返りもロクに打てないような小さな子を毎夜一人置いて病院を去る妻のストレスたるや、隣で見ていても堪えるものがあった。

 

入院後数日が経ちようやく熱も治ってきたかという段でにわかに病院内がざわつき始めた。念の為受けていた検査の中で何やら心臓に影が見つかったとのこと。お見舞いで付き添う妻の前にあれよあれよとドクターが集まりいよいよ一番偉い先生まで現れて再検査の必要性と詳しい説明はまた後日という旨が伝えられる。

 

心臓に影。これで冷静でいられる親などいるまい。ネットで調べればいくらでも恐ろしい可能性を示唆する情報が出てくる。目の前でいくつも管を繋がれている娘を見るだけで心が痛むのに、この子に万一のことがあったら。夫婦ともに憔悴し切っていた。ちょうどその渦中で師匠とのセッションがあり文字通り神にもすがる思いでことの相談をした。

 

絶対に死なせないという思いで祈りなさい。

傲慢さを持ちなさい。

 

そのアドバイスだけで十分だった。僕の中でスイッチが入った。絶対に死なせない。

思えばそれまで受けたご依頼に対しては本気で向き合い祈ってきたつもりだったが、どこかで予防線を張る自分もいたことに気づいた。世の中「絶対」なんてないよ、何でも祈って解決するものでもないよ、全部が思うようにならなくても責任は取りかねるよ。

 

しかし娘の命となると話が違った。もしこれで力が及ばなかったとしても自分で自分を責めるだけだ。俺が背負える。責任は自分が取る。「絶対」と言える。

 

スイッチが入ってみると、真冬でも水行で一切の冷たさを感じなかった。あらゆる感覚が霊性に集約されたようだった。冷水を浴びるだけで娘が助かるのであれば屁とも思わなかった。

 

そして祈った。「絶対に」死なせないつもりで祈った。今傲慢にならずいつなる。大丈夫、絶対に死なせない。

 

その日の午後、病院の妻から連絡が入った。
「大丈夫だった」

 

次女の心臓は一風変わった形成をしており、それであって奇形でもなく機能的・構造的問題はないという結論だった。

 

その夜、心からの安堵と祝福をする両親の様子を見て長女が何事かと尋ねてきた。
今日ね、次女ちゃんの心臓に神様の部屋が見つかったんだよ。

 

このときから僕は「本気で祈れる」ようになった。

不思議file07: 呪われた借家の家祓いをしたら入居者に恵まれた話

ある帰省中に家族からお祓いを依頼された。聞くと祖父母が保有するいくつかの借家のうち一つだけ明らかに入居者に恵まれずもうお祓いしかないという段に至っている、トラブル続き・短期退去続きをどうにかしたいとのことだった。僕の不思議ちゃん活動を普段は眉唾半分で受け止めている家族からの本気の依頼だったため事情は深刻そうだった。

 

では心して。関係する親戚一同に集まってもらい前行から家祓いの儀まで同席してもらう。当時まだ正式に神職資格を取得しておらずましてや家祓いの儀が何たるかも知らなかったため不思議ちゃんパワー全開で上からの声に従い祓いを進めていく。今振り返れば塩撒きは南東から時計回りで行ったりと形式的な抑えどころはきちんとカバーできていた。サンキュー声の主。

 

前行の過程でその土地における自殺者の痕跡が見つかった。それを伝えると先々代で実際にその出来事があったという話が祖母から出てきた。親戚一同初めて聞く話であり自分で指摘しておきながら僕もやや肝を冷やした。人間何世代か遡ると大体何かしら遺恨が見つかるものである。然るべきお祀りをし名前も顔も知らない御先祖さんには安らかに上がっていただいた。

 

家祓いの途中ではクローゼット内に禍々しい気が充満しているのが見つかった。こちらは綺麗になるまで丁寧に祓った。借家内を練り歩く中で突然立ち止まり祝詞をブン回し始めたので親族はさぞ驚いたろうが、変人だと突き放されるようなこともなくつくづく僕は身内に恵まれていると感じる。

 

そんなこんなで無事家祓いの儀が完了。その後、数か月で新たな入居者が決まり数年経った今でも祖父母や近所の人たちと良い関係を築けているとのことで大変感謝される。こうして人の役に立つ限り私の不思議ちゃん活動は続く。

不思議file06: 島を丸々一島浄化した話

壱岐島。福岡の港から船で1時間というアクセスで、出張の機会に恵まれなかったら一生縁がなかっただろうこの地に、何の因果か仕事で訪問することになった。

 

よくよく調べると神の島とも呼ばれるこの島は古事記の中でイザナギイザナミによって五番目に産み落とされたとされ、現在も島内には150もの神社が存在するらしい。神道修行を務める自分にはまたとない好機であり、普段から修行を頑張ってるご褒美かななどと浮き足だって師匠に報告した。

 

壱岐島ですか。ずっと気掛かりだったのです。

 

祝福のリアクションを期待した僕はどこか緊張感のある師匠を見て即座に悟った。あーこれはご褒美じゃなくて試練のパターンのやつ。

 

曰く、界隈で悪名高いスピ系インフルエンサーが近年壱岐島に移住し、現地のコミュニティを荒らして大変。師匠はその事情をキャッチしつつも、どうしたものかと心のどこかで常に引っかかっていたとの話だった。

 

かくかくしかじかの事情を一通り聞き「シンさん、頼みました‼️」と送り出された僕はまーた出張先の仕事が裏表ダブルになってしまったと立ち尽くすばかりだった。ロンドンで100体鎮魂した時といい遠方への出張は裏ミッションも伴いがちなのが不思議ちゃんの日常である。

 

やむなく前日入りのスケジュールで出張予定を組み、1日目に壮大な島内浄化作戦を計画した。レンタカーを転がり回して訪問予定の神社は10ヶ所近くを数えた。

 

最初に島の中央部にある代表的な神社さんへ伺い一通りの仁義切りをした。そこで「最初に本陣へ切り込むべし」という神託を受けた。これは参った。件のインフルエンサーは島内でも有数の神社さんに嫁いでおり、そこが本浄化作戦の最難関かつ最注力ポイントだった。元々の予定では徐々に周りを固め最後に敵方大将を仕留めるという算段だったが、最初から本丸へ行けと言われてしまった。行くしかなかった。

 

到着してみるとその神社は山上に位置しており、まっすぐな坂道を登った先に社屋があった。坂下から見上げると空は暗く、空気は重く、道の両脇に均等に並ぶ薄紫ののぼりが不穏にバタバタとはためいていた。映画トリックの映像効果を彷彿とするほどに視界は薄く紫がかって見え、ハンドルを握る手が自然と汗ばむ。助手席には興味半分勇気半分で補佐を名乗り出てくれた会社の同僚が目を開いて視線を前方から外さなかった。

 

頼りないコンパクトカーで薄紫の空気を押し分けるように坂を登る。車を停めて境内に入ると参拝客も関係者もおらず静まり返っている。今がチャンスだと言われている。渾身の祈祷を捧げる。文字通り一心不乱。これを上げろあれを上げろと天上から下される指令に応え次々に祝詞を唱える。最中、雲が割れ、太陽が差し込んだ。隣で手を合わせている同僚が息を呑むのが分かった。何分間の祈祷だったのか、とにかくやるべき仕事をやり切った。

 

往路は薄紫だった空気が復路になると透明に澄み渡っていたのは誰の目にも明らかだった。神様が人払いをしてくれていたようで次々に参拝客がやってくる。この日、最もヘビーであろう案件を無事満了し心からの安堵で次なる神社へ向かった。正直油断していた。

 

次の神社に着いてみるとどういうわけか成仏しそびれた御霊がざっと400体ほど徘徊していた。いずれも並々ならぬ亡くなり方でどう考えても戦の跡地のような光景だった。ボスを倒して安堵していた矢先、裏ボスが登場した事実に完全に狼狽させられた。

 

とはいえやるしかないので取り掛かる。さっきは神様修行お次は仏様修行。なんとも振れ幅のある御祈祷フルコースだった。量が量だったのと各人の因縁が強かったのと時間が限られてたのと現場のコンディションが良くなかったのとで、その場で全てを上げることはできないと判断した。代わりに船を拵えてひとまず全員乗船していただくところまでやり切り神社を後にした。機を改めて船ごと上げる作戦である。

 

神社からの帰り道、道端に立つ看板に目をやると「←元寇の地」と書いてあった。なるほど先の400体は元寇で虐殺された島民の魂だったわけである。不思議ちゃんの答え合わせはいつも瞬く間にやってくる。

 

その後も島内の神社を回って祈祷を進めるも出船の機会には恵まれず、二日目の残業が確定して床に着いた。そして夜中「夜明けに島内が一望できる高台で祈祷を捧げるべし」と天上から指令が飛んでくる。さすが神の島、不思議ちゃん遣いが荒いのである。

 

やむなく夜明け前に起床し高台に向けて車を走らせる。まだ寒さの残る季節、強烈な海風に晒されながらも白行着一枚に着替えて日の出とともに祈祷を始める。人っこひとりいない展望台の頂上でこれまた一心不乱の修行。島と一体になるなんとも神聖な修行だった。結果的に島全体と船上の御霊が一段と浄化鎮魂に至る祈りとなったが、寒さにやられ人知れずぶっ倒れたら大変だったなと振り返って思う。不思議ちゃんのネジの飛び方を今更どうこう言っても仕方ないことではある。

 

日中、無事仕事を成功に納め、別れの挨拶をして車に戻る。帰りのフェリーまで2時間。船の上には400体の成仏待ち。時間との戦いだった。

 

めぼしい神社とお寺さんを数箇所回るも出航まで漕ぎ着けられず、最終的にことを成したのは一日目に仁義きりで訪れた最初の神社さんだった。壱岐島の方舟は400体の御霊を乗せて無事出航し、これにて二日間の壱岐島修行は満了となった。島を丸々一島浄化したこの経験は僕の大いなる糧となり祓いの力が数段レベルアップする出来事となった。

不思議file05: 何万個ものパワーストーンから石の声を聞き分ける話

パワーストーンを見繕ってほしいと、懇意にしている方から依頼を受けた。

 

不思議ちゃんの業務範囲として受けていいものかと師匠に相談すると、返す刀で送られてきた膨大な情報量の指南書は詳細なHow toにまで記載が及んでおり、なるほどこの世界においてパワーストーンのお見繕いはそれなりにスタンダード業務のようだった。

 

細部に渡る情報と師匠からの手厚いサポートがあるのは心強い。これなら自分にもなんとかやれそうだと背中を押された気持ちで手順書に目を向ける。

 

ステップ1 神様にお伺いを立てながら石を選ぶ。

ステップ2 …

 

これは詰んだかもしれん。ステップ1がエベレストのように高く聳え立っている。指南書自体は詳細でありながらも、折々でやってくる不思議ちゃん力の試されるパートの記述は至ってシンプル、かつそれ以上言葉で語るものでもないという師匠の意図を感じた。以降の記載もそんな様子で極めてシンプルな不思議ちゃんパートとたっぷりと説明がまぶされたそれ以外パートという絶妙なミルフィーユ指南書として仕上がっていた。

 

初手に大きな戸惑いを抱きながらも泣き言はいってられない。これだけ手厚いサポートをしていただき、ご依頼いただいた方からの期待もある。できる準備は進めながら、でも払拭しきれない不安とともに月日は過ぎ、ついに石屋がひしめく都内某駅に降り立つ日を迎えた。ひとまずgoogle mapでピンを立てておいた石屋を一軒一軒覗いてみる。

 

これまで生きてきて縁もゆかりもなかった石屋は別の言い方をすればスピ屋だった。パワーストーンはもとより謎の草や謎の金属や謎の布、とにかく人生で出会ったことのない謎のスピリチュアルグッズがずらりと並ぶ場所だった。

 

石の声は存外よく聞こえた。花の声を聞く訓練の賜物かもしれない。問題は石がありすぎ、声が多すぎることだった。各店舗溢れんばかりの品揃えで世はまさにパワーストーン大洪水時代。一個一個に耳を傾けていたらキリがなかった。

 

一通りのウィンドウショッピンを終えて至った結論があった。これは神様にお伺いを立てながら選ぶしかねえ。

 

というわけでギアをもう一段深めて店回り二周目に突入。行くべき店と目を向けるべき方向は神様自動運転モード。不思議ちゃんスイッチにも段階があることに我ながら驚いた。界王拳を20倍まで引き上げる悟空がよぎった。


ふと目が行く。石の声を聴く。ご依頼者との相性を伺う。

 

そんな感じでなんとか3名分のパワーストーンを選定でき、達成感と疲労感に浸かって帰路についた。数時間がかりの工程だった。これは不思議ちゃんだからできる仕事だといたく腹に落ちた。

 

その後もいくつかの不思議な工程と現実的な作業を踏みながら無事の納品に至った。面白いことにパワーストーンは衛星のような働きもしてくれるようで、後日体調管理や憑物のご相談など折々で遠隔から視させていただく機会において、裸装備に比べて一段と深い解像度を石を通して得られることはまた別の驚きだった。

不思議file04: ストーンヘンジで囚われの宇宙人を救出した話

一時期あまりにもロンドン出張が続き、年の半分近くを英国で過ごすタイミングがあった。長期出張ともなると現地で休みを取らねばならなったが、観光するにも飽きが来るものであり、途中からいよいよ暇を持て余すようになった。

棲家と化した質素なホテルの1ベッドルームで横たわりながら、ふと巨岩のイメージが頭をよぎった。ストーンヘンジ。あれ確かイギリスだったよな。

調べてみるとロンドンから日帰りツアーが出ている。いけそうやん。

 

そんな経緯で次回の長期出張は途中の休みでストーンヘンジへ行ってみようと呑気に計画を立てた。このときはまだ自分が囚われの宇宙人救出大作戦に巻き込まれることになるとは露とも思わなかったのである。

 

そして月日は流れ、次の長期出張中に休みを取れるのが偶然にも夏至の日で、よくよく調べてみるとストーンヘンジは年に2回、夏至と冬至の日だけ石に触れる距離まで近づけると出てくる。もはや天啓である。迷うことなく夏至のツアーに申し込んだ。

 

朝早くにロンドンを出発し夜遅くに帰ってくる日帰りで、ストーンヘンジを含む3つの遺跡を巡るという内容だった。ロクに下調べもせずに当日乗り込んでしまったが、ストーンヘンジという目的地自体が幾分かスピ成分多めだったようで、ガイドのおじさんは片手に振り子を握りしめて場所場所で揺らしながらエネルギーがどうとか語っており、参加者は熱心に耳を傾けていた。僕は途中で飛び込んできた宇宙人のせいでガイドさんの話を聞くどころの騒ぎではなくなってしまった。

 

最初に寄った遺跡は洞窟だった。奥行きは10m程度で、中は5つぐらいの部屋に分かれていた。何万年前の遺跡だとかガイドさんが言っていた。

この日のメインディッシュはストーンヘンジだったため、前菜の洞窟は完全に油断していた。まさかいきなり囚われの宇宙人に出くわすなんて思いもしなかった。

 

なぜか知らないがその宇宙人は洞窟の中から出られなくなっており、「私をストーンヘンジへ連れてってクレ!、宇宙に返してクレ!」と強く要請してきた。

やれやれこれは困ったという僕の手元にはお白石が一つ。もしものために日本から持参した和歌山県白浜のお白石だった。一旦この中に入ってもらう他ないと周りを見渡すと、洞窟の入り口に大きな岩盤が門のように聳え立ち、ちょうど僕の目線の高さぐらいにおあつらえむきの窪みがあった。お白石を当ててみると、待ってましたと言わんばかりにピッタリフィットした。ここで宇宙人の収納作業を遂行することにした。

 

f:id:liquorshopshin:20260210232355j:image入口の岩盤。中央部の黒い影がお白石用の窪み。

 

 

ここから始まる大救出劇。お白石を持った両手を岩盤に当てぶつぶつと祝詞を唱えているアジアンボーイ。洞窟の中では振り子を振りながら熱心に超常現象を話しているガイドさん。それについて回る参加者たち。眉間に皺を寄せて真剣に宇宙人を吸い取っているアジアンボーイ。洞窟の中を一通り見終わり出てくる御一行。まだまだ終わらないアジアンボーイ。そろそろバスに戻ろうかと御一行。

 

ようやく全てが石に収まり、細心の注意を払ってお白石をポケットに滑り込ませる。祝詞をガンガン回す様子を他の参加者達が見て見ぬふりをしていた気もするが、何を隠そう彼らもスピなツアーに参加するスピな人たちだ。今更アジアンボーイが石に手を当ててぶつぶつ呪文を唱えたところで自分らと大差ないだろ、と半ば自らに言い聞かせなんとか最後までやり切った。スピ集団の中でもひときわ浮くのがモノホンの不思議ちゃんである。

 

そんなこんなでポケットに収まる得体の知れない存在を一刻も早く宇宙に返したい一心で、その先の道中は心ここに在らずという風情だった。

ようやくストーンヘンジに辿り着くとどうやら石に触れられるのは早朝までで僕が到着した正午頃には平常時の立ち入り禁止状態に戻っていた。が、そんなことは意に介さずとにかく一目散に宇宙人のお返しの儀を始めた。

 

触れることはできないものの、なるほど確かに夏至は宇宙への扉が開いた状態で、無事囚われの宇宙人はストーンサークルの中央部からロケットよろしく上に突き上がって帰っていった。ミッションコンプリートである。

 

そもそも何万年前もの御霊が、僕が訪れる瞬間まで誰にも気づかれずに囚われ続けたという事実は確率的におかしいのでは、などと問う自分もいた。が、見えない世界は時空間の概念が異なる(orない)ので、僕という存在が現地を訪れたことを契機に、この世時間でいう何万年分を隔てて御霊が登場したことは全然あり得ることだなと納得している。また宇宙人って何というオープンクエスチョンもあるが、まず魂が宇宙人と言っていたからそう形容するほかなく、よくよく考えてみれば便宜的に「人」という字を用いているものの存在そのものは単なる波やエネルギーの類であり、それを五感以外の感覚器で知覚しているに過ぎないと思えばあとはありのままの存在を受け入れるだけなのである。

私の中のお利口ちゃんパートと不思議ちゃんパートはしばしばそんなセルフ問答をやり合ってる。

不思議file03: 利己的な目的で能力を使ったら1か月声を失った話

不思議ちゃんの力は利他的な目的にしか使わないという絶対的グランドルールがある。が、一度だけ実験的に利己的用途で使用したことがあり、痛い学びとなった。

 

とある年末、会社の忘年会でレクリエーションの一環としてクイズ大会が開催された。
お遊びにしてはやけに難易度が高く、誰も知り得ないような内容を8択ほどの膨大な選択肢から回答させる形式で、早々に多くのグループが不正解をたたき出していった。

 

自分のグループは幸運なことに序盤を調子よく乗り切っており、その時点で他からは頭一つ抜き出た好成績となっていた。
優勝圏内なのではという機運の中、いよいよ問題の難易度がエスカレートしていき、これはもう手に負えないから適当に答えようという段まで至った。

 

どうせ当てずっぽうなのであれば、一度ワタナベに任せてみませんか。どこまでやれるか分かりませんができる限り視てみます。

お酒の席ということもあり、グループの皆が面白半分で自分に選択を委ねてくれた。

 

こうしてクイズの回答を当てるという何とも些末な、しかし利己的な目的のために初めてパワーを使ってみることになった。
面白いほどに当たった。ロクに問題文や選択肢の内容も見ず、ただう〜んと一人で唸ってB!とかE!とか放つ回答が見事に的中する。

 

始めは面白半分だったグループの人たちが段々引いていくのがわかる。もう何年もの付き合いになるけど、今までで一番すごいと思っているよ…と同僚が苦笑いしながら声をかけてくれる。不思議ちゃんに出会うと人はリアクションに窮する。

 

蓋を開けてみればそれ以降を全問正解し、僕のグループは豪華賞品をゲットできた。後から計算してみると100万分の1に迫る確率をくぐり抜けていた。我ながらドン引きである。神様とか御先祖様とか邪気とか妖怪とか魔とか、見えないものばかりを相手にしている普段とは違い、現実世界の成果として目撃するとまた違った凄みと恐ろしさを感じた。

 

同時に嫌な予感があった。完全に利己的な用途。代償を払うことになるだろうと予感した。

 

結局その日は2次会まで楽しく飲み、帰宅したころには日を跨いでいた。
詰め込みすぎたアルコールに引きずられるようにしてリビングで倒れ込むと、会社携帯に着信が入った。こんな夜中に誰だと片目を開けると、英国のクライアントからだった。電話の向こうから聞こえる声は極めて厳しかった。

テスト導入してもらっているウチのシステムがトラブルによって作動停止したため、現場での運用を中止するという通告。大ピンチである。

 

代償が来るの早すぎワロタとなりながら、電話口で謝罪と対応策を伝えなんとか今後も運用を続けてもらうための交渉をする。体内のアルコールは一瞬にして霧消し、へべれけだったはずの脳はもうシラフに戻っていた。
フルスロットルで回転する頭と口をよそに、徐々にその声が掠れていくのを感じた。何分の電話だったのかは分からない。必死の説得の末、なんとか最悪の事態は回避でき、電話を切ったころには完全に声が出なくなっていた。

 

風邪をひくでもなく、のどを痛めるでもなく、ただただ本当に声だけ出ない状態が、その後1か月続いた。
1か月分の声と引き換えに、会社のクイズ大会で勝利を収める。何とも割に合わない実験結果だった。それゆえ僕はもう遊び半分でも利己的な目的に力を使うことは決してないし、愛する人と一緒になるために一生分の声を渡したアリエル先輩を心から尊敬するのである。