ルンバを買ったら股が開いた

習慣を手に入れることの難しさたるや、今更皆さんに問いかけるまでもなくご理解頂けるだろう。

 

英語を習得したい!1日10分のシャドーイングから始めよう

体を絞りたい!1日30回の腹筋から始めよう

教養を高めたい!毎日少しずつ哲学書を読み進めよう

 

人にはそれぞれの突如たる決意表明と持続可能(と当初は思われる)実行プランが降ってくるタイミングがある。しかし黄金の輝きと共に生まれ落ちた前途洋々たる計画は途端に錆が目立つようになり、Faf De Klerkのタックルを食らったかの勢いで3日と持たず砕け散る。

仕方あるまい、それが我々人間のネイチャーなのだ。賢く臆病だったホモ・サピエンスのご先祖様が限りあるエネルギーを休息というライフハックをもって効果的に活用した結果、現代人の誕生にまで至ったのだ。休息は食事・睡眠・性交と並んで僕らのゲノムに刻まれた極めて原始的な欲求の一つだ。だから10分のシャドーイングが10分の睡眠になり、30回の腹筋が1袋のポテチと1杯のビールになり、手に持つはずの哲学書youtubeになっているのはごく自然な帰結だ。

 

それを踏まえた上で論点となってくるのは意志の力だ。人間の強みである理性をいかに飼い馴らすか、結果的にいかに強い意志の力を手に入れるかというのが、糞便混じる海水でトライアスロンを開催し、40度にも達する環境でのマラソン開催を企図する賢い現代人のアジェンダというものだろう。例えば朝から晩まで働き、友人との飲みで大いに盛り上がって帰宅後即ソファへとダイブした瞬間、我々は運命の岐路に立たされる。

「正直、めちゃくちゃ悩んでます。気力も体力も使い切る時間が終わって、この長い一日の末、どうやって締め括ろうって。真剣に考えて、気づいたんですね。今日は特別に疲れてるんやって。別に明日から再開するので問題ないやんて。気付かせてくれて、ホンマにありがとう。今日は包み隠さず全部いいます。こうしてゴロゴロしてる時間がホンマに幸せやなって、そう思います🌹」

 

こうしてミスターサタン並みの戦闘力を誇る理性は、魔人ブウたる本能の前に為す術もなく砕け散り、口だけは一丁前に「いやこれには理由があって・・・」と観衆を納得させにかかる。想像を絶するだらしなさは、テレビの向こうの特定の誰かだけではなく誰しもに備わっている。

 

そんな大勢居る怠惰マンの一人として20ウン年生きてきたワタナベが驚くことにひとまず2週間の習慣化に成功している。その過程を記すことで、だらしない同盟の皆さんのご参考になれば幸いだ。

 

2週間持続している3つの習慣

柔軟・・・股関節周り(=股を割ること)に集中

筋トレ・・・自宅でできる自重トレーニング(腹筋+腕立て伏せ)に集中

語学学習・・・フランス語から始まり、ヘブライ語スペイン語に派生中

 

習慣化がもたらした成果

柔軟・・・90度も開かなかった股が130度まで開脚可能に

筋トレ・・・ヒョロガリが僅かながら筋肉質に

語学学習・・・ゼロスタートのフランス語で簡単なコミュニケーションが可能に

 

3日坊主を回避する3つのポイント

3日坊主回避策を敢えて綺麗にカテゴライズすると1.意志のハック2.活動内容のハック3.環境のハックに分けられる。言わずもがな2.3.は1.を達成するための間接的アプローチに過ぎない。以下順番に紹介する。

 

  1. 意志のハック
    理性はある意味ちょろい存在で、調子に乗らせてしまえばこちらのものだ。心の中の松岡修造に「いいぞ!君は正しいことをしている!その調子だ!」「確実に進歩しているぞ!今の君は昨日の君よりも強い!」と鼓舞してもらい、まんまとそれにノセられてしまえば良い。自分をノセる方法のうち2つを紹介しよう。

    方法論を漁る
    確立された方法論を学ぶことで安心感を抱くのは僕だけではないだろう。一人で闇雲に開脚してみたり筋トレを始めてみるよりも「こうしたら確実に足が開きます/筋肉がつきます」というお墨付きをもらったほうが自分の行為に自信と安心感が伴い継続につながるように思う。今やyoutubeで知識を仕入れることは簡単だ。溢れかえる情報から自分に合った・納得できる道を選ぶことが、持続への第一歩になろう。

    この動画の通りやったらマジで30度開いた

    初速をつける
    習慣化にも慣性の法則があるように思う。勢いがつきさえすれば継続も比較的容易だが、一度止まってしまった活動を再度動かすことは実に骨の折れる作業だ。そのため僕の場合重要だったのは初速をなるべく上げておくことだった。勢いよく飛び出した分だけ失速のタイミングを先延ばしにできたという寸法だ。例えばフランス語学習の初日は週末を丸一日使って初心者向けの教科書を一通り読み切り、挨拶等の基本を習得し、数多のyoutube動画を漁って自分に向いた勉強方法を見つけ、今後の勉強の方向性を定めた。これがもし「よーし毎日10分、まずはアルファベットを少しずつ覚えようー😆」というカジュアルなノリでスタートしていたら、途中で先行きが見えず脱落というパラレルワールドがありありと目に浮かぶ。

    この先生の素ぶりがすごく可愛い

  2. 活動内容のハック
    昨日まで怠惰な生活を送っていた人が突然100回腹筋をやれと言われても無理がある。何事も、手の届く内容でないととても習慣化には至れない。

    リーズナブルに強度設定する
    時間、距離、内容、全てにおいてリーズナブルな設定は必須だ。2時間もある筋トレメニューを毎日こなすことは非現実的だし、わざわざ何駅も先のジムに足蹴く通うことも難しい。時間や距離や内容、全ての難易度において確実に続けられそうな強度を設けるのが肝要だ。この点、世の中のゲームは良く出来ている。程々の難易度が課され続けることでユーザーは心を掴まれて止まず、習慣化どころか見事な中毒に見舞われる。ワタナベも語学学習においてDuolingoというアプリを使っているが、フランス語学習が面白いばかりについにヘブライ語スペイン語にも裾野が広がっている。

    流れを作る
    ここ2週間は晩御飯後のルーティンとしてストレッチ→筋トレ→シャワー→語学学習という流れが定着した。こうすることで自分の中の怠惰マンを極力抑え込めている。まず満腹で何もしたくないという晩御飯後はストレッチを始めるのに最適だ。どうせゴロゴロしているのならゴロゴロしながら実践できる種目からスタートし、徐々に立ち→ヨガマットの上と移動してストレッチを完結させる。その頃にはすでにマットの上にいるので筋トレを始める心理的ハードルがぐんと下がっている。筋トレで汗をかいて気持ち悪いので速攻でシャワーに足が向かう。シャワー後の火照りを冷ましながら語学に向かう。この順番をして柔軟・筋トレ・語学という3つの習慣を全て維持できていると言っても過言ではない。

  3. 環境のハック
    集中できるスペースとなると、カフェ派・図書館派・自宅派など、空間に対する多様な趣向が見られる。同様のことが習慣化にも言えるのではなかろうか。つまり人それぞれ、もしくは活動それぞれに、習慣化を達成するための適した環境がありそうなのだ。

    場を整える
    暑すぎるのも寒すぎるのも、運動を怠るには十分な理由たり得る。今回僕は気候に助けられたという点で非常にラッキーだった。現在のイスラエルは極めて過ごしやすく、Tシャツ短パンで少し肌寒いという環境は即ち筋トレやストレッチをするのにもってこいだ。温度・湿度・その他諸々の環境を整えることは馬鹿に出来ない。本気の習慣化を狙うなら、まず冷暖房機・除加湿機のリモコンに手を伸ばすことから始めても良さそうだ。

    ルンバが股を割る
    さらに今回習慣化をもう一歩促したのがルンバの存在だった。若干潔癖の気があるワタナベは綺麗に掃除された室内でも髪の毛一本落ちているとそこに寝転がってトレーニングをする気持ちが萎えてしまう。髪の毛一本などいつでもどこでも容易に落ち得るし、床を汚いと感じている訳でもない。それでも習慣化を破るには髪の毛一本という些細な理由は十分すぎるほど痛烈な一打だ。(妻の名誉のため、いつも綺麗な室内が維持されていたことに言及しておきたい。)
    そんな中、この夏我が家にルンバが到来し、僕と床との距離は急激に縮まることとなった。ピッとやってペッと掃除してパッと綺麗な床。はー床綺麗だよスリスリ。こうして一切の心理的ハードルが取り除かれ、ワタナベ史上最もスムーズに柔軟に移れる環境が整った。
    この秋、ワタナベの股はルンバによって開かれたと言っても過言ではない。