アダルト恋愛相談

ランチタイムにキッチンでお弁当箱を広げ一緒に食事と会話を楽しむランチ仲間がいる。3人の30代女性+自分といういささか不思議な組み合わせの会はしばしば大変タメになる話題へと舵を切ることがある。

 

年齢的に2番目に若い女性が1カ月前、それまで付き合っていた男性との破局を迎えた。今日のランチは彼女の近況を自分と一番年上の女性の2人で聞く会だった。以降便宜的に一番年上の女性を姉、相談主を妹とする。

 

妹からの話題提起

妹「先週末に元カレと会って話してきたわ。彼の方もなかなか新しい人を見つけることが出来ずにいて、もしかしたら私たちいつかよりを戻せるかもしれない」

僕「それは良いニュースだね。でもそもそも破局のきっかけは何だったの?よりを戻すにしても元々の問題をクリアにしないと二の足を踏んでしまうかもしれないよ」

妹「最終的にお互い言い争ってばかりの関係になってしまったの。いつも始まりは些細なことなんだけど、そこから何時間も言い合ったり嫌な雰囲気が流れたりして、いつしか常にそんなネガティブな空気になってしまって。結局元の関係性に戻れずに破局することにしたの」

 

妹は苦しい時間の末にフラれてしまい未だに後ろ髪を引かれている。そこに姉からの助け舟が出る。

 

姉からの解決策提示

姉「ちょっと、それまさに私と夫にも起こったことじゃない!とっても良い解決策を知ってるわよ!」

妹「なになに、教えて」

姉「あのね、私たちもいつも小さいことで言い争ってたの。その内の1回が本当にひどい喧嘩で3日間お互い口を利かなくなってしまったからどうにかしなくちゃと思って。思い切ってカップル向けのレッスンに丸二日間通ってみたの。そこで教えてもらった解決策が効果テキメンなのよ!」

妹「すごい!是非聞きたいわ!」

姉「まず1日に1度、必ず夫婦間でお互いの考えを共有する時間を設けるの。たった2分でいいのよ。そこでお互いに対して嫌な気持ち・直してほしいことがあったらきちんと伝えるの。別に嫌なことがなければ自分の考えや性格、その日感じたことを相手に伝えるだけでも構わないわ。でも嫌なことがあったときには、何に対して、なぜ嫌な気持ちになったのか相手に伝えるの。相手は必ず最後まで言い分を聞く代わりに、伝える側は必ず”だから今後はこうしてほしい”と提案をするの。相手はその提案を受け止めるか、そうでない場合は別の提案を出すの。そうして解決策を決めたらもう言い争いはしない。これがルールよ。2時間の喧嘩が2分になるわ」

 

さすが経験者。解決策の具体度がハンパではない。しかし妹はまだ浮かない顔をしている。

 

妹からの反旗

姉「だからあなたも相手に直してほしい部分があったならそれをきちんと指摘すれば良いのよ」

妹「そっかあ。でもそれは私には出来ないわ」

姉「どうして?」

妹「まず私は男性にロマンチックであってほしいの。私はいつも彼からの愛を感じていたいし、そのために行動や言動で愛を表してほしいの。でも彼は私に対して愛を伝えてくれなかったの」

姉「じゃああなたはその気持ちをきちんと彼に伝えないといけないわ。私は今の夫とのデート一日目に”私は毎朝I'm missing youというメッセージがほしい、毎日電話してほしい、記念日には花を送ってほしい、それが私の絶対条件”と伝えたわ」

妹「私にはできないわ。だって私が欲しいのは彼自身からの純粋な愛なの。私の口からそうしてほしいと言って、彼が行動に移し始めた時点でそれは彼自身の自発的な愛なのか、私に言われたから行っているのか分からなくなっちゃう。私の求めるauthentic loveじゃなくなっちゃうの。だから私からはそう言えないわ」

 

実に面白いキャッチ22がここにある。もう少し姉ちゃんのアドバイスに耳を傾けよう。

 

姉からの宿題

姉「じゃあそうやってあなたのことを愛してくれる人を探せば良いじゃない。彼はあなたの求める人じゃないということでしょう。因みに最初はauthentic loveだと感じないかもしれないけど、何度も繰り返すうちにそんなこと気にしなくなって幸せな気持ちだけが残るわ。だって彼は私が喜ぶことをし続けてくれているんだから」

妹「でも私は彼のことを本当に愛していたの。まだ今でも愛していると言えるわ。彼がロマンチックな人になってくれることがベストなの」

姉「あのね、自分にとって絶対譲れないものを3つ列挙しなさい。それ以外はまず無視するの。この世界に完璧なんてないんだから。まずその3つを満たす人を探す努力をしなさい」

姉「自分でもわがままだと分かっているんだけど私のリストは3つじゃ収まらないの、7つはあるの」

姉「3つよ。絶対3つ。でないと幸せを掴むことは奇跡を祈るのと同じだわ」

 

そういって姉さんは仕事に戻って行った。秘書さんはしばしばオフィス内で誰よりも頼りになる人のことを指す。ここで暫く口を閉じていたワタナベの番が回ってくる。

 

エゴの正体

僕「条件は幾つでもいいと思うんだけど、優先順位は明確にした方が後々ラクになるよね。そのロマンチックさが重要ならやっぱり他の人を探した方が自分のためになるだろうし、そうでないと決めたらスッキリとした気持ちで彼とよりを戻す方向に動けるから。もしくは直接彼に伝えることなく本人にロマンチックさを兼ね備えてもらうというウルトラCを狙うかだけど…それこそ姉みたいにカップル向けのレッスンに行ってみるのはどう?」

妹「今?2人で?もう付き合ってないのに?」

僕「今。2人で。別に付き合っていようがいまいが関係ないじゃん。お互いが将来よりよい人生を歩むためにはここできちんと反省を明確化しといた方が良いよ」

妹「うーん、実は破局前に行こうとしてたんだけど、”行こうと誘った方が負け”みたいな空気があって結局お互いにお互いを誘わず終いになってしまったの」

僕「なんだ。じゃあもう今のタイミングで相手を誘ってみればいいだけじゃん。勝ち負けなんてないんだから」

妹「出来ないわ。分かってる、それが私のエゴなの。出来ないの」

僕「なんで出来ないの?明らかに今後の人生をより良くすると分かっているのに?自分の人生よりも大切なモノって何なの?」

妹「あのね、私は母から”女性は強くなくてはならない。決して男性にも媚びてはならない”と言われ続けて育ったの。その価値観が私の中に根付いているのよ。ただのStigmaだということは分かってるけど。この考え方から逃れられないの」

僕「わーおそれ、なんていうか、めっちゃ面白いね。自分がそういうstigmaを持っているということを客観視しているのに、同時にそこから外へ踏み出せないんだ。そうなると今度は、stigmaに縛られた人生と、そうでない人生、どちらが自分にとってより理想に近いのか整理する必要があるね。あと強いとか媚びるとかって言葉が何を意味するかも明確にしないとね」

 

残念ながらここでランチタイムは終わりを告げた。姉の含蓄溢れるアドバイスにも感銘を受けたが、同時に妹の自己理解の深さにも驚いた。これ以上はいよいよお節介の領域に突入しそうなので干渉を控えようと思うが「彼をレッスンへ誘う」という極めてシンプルなネクストアクションが目の前にぶら下がっているにも拘わらず実行に移せないという事実にstigmaの威力をまざまざと垣間見た。こうして今日も少年ワタナベは大人の恋愛事情という荒波に揉まれるのだった。

 

※一応本人に掲載許可もらってます