キングボンビーが登場するとき

14:00 カンファレンス会場に到着

14:05 駐車場で号泣する女性とそれをなだめる男性を目撃

14:10 会場入り口まで来るも閑散具合に違和感を覚える

14:11 念の為カレンダーに登録した会場を再確認、住所の誤りを発見

14:15 駐車場に戻る まだ女性は号泣している

14:20 正しい会場に車を飛ばす

14:25 前方の車2台が運転しながら窓越しに怒号を飛ばしあっているのを目撃

14:35 正しい住所付近に到着

14:40 気温35℃の中を歩き回って探すも会場が見つからない

14:41 カンファレンスHPまで辿って会場を再確認、最初の場所で正しかったことが発覚

14:45 再び車を飛ばす

14:55 渋滞にはまる

15:10 最初の会場に到着 まだ号泣している女性を目撃

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16:55 カンファレンス会場を後にする

17:00 普段は無料開放している駐車場のゲートが開かず出られない

17:05 仕方なく近くの券売機で精算をする その間次々と車がゲートに押し寄せ大渋滞

17:10 ゲート付近で運転手と警備員が言い争っている 結果ゲートが解放され600円払い損する

 

今日はツイてないと思わずにはいられなかった。号泣シーン、会場誤認識、号泣シーン、怒号シーン、35℃の流浪、会場誤認識、渋滞、号泣シーン、怒号シーン、払い損。気が滅入った。桃鉄でいうところのスリの銀次に出会った矢先にキングボンビーとボンビラス星へ旅立ちガツガツ搾取される傍で地上では怪獣が登場し台風と噴火と大雪が発生しているぐらいイベントが重なり合った。「わたなべ社長!本日は大荒れですな!」というテロップが心の目で見えるほどげっそりした。今の僕にはARもMRも必要ない。

 

帰路、ハンドルを握りながら一体どこまでが本当にツイてなかったのかと思いを馳せる。問題の場面を整理してみる。

号泣シーン×3

会場誤認識×2

怒号シーン×2

35℃の流浪

渋滞

払い損

 

まずこの国には基本的にして重大なトラップがある。僕が「地名トラップ」と呼ぶそれは二段構えの体をなしている。一段目は「同名使い回しの段」。とにかく同じ名前の住所が国中に点在しているのだ。「なんとかstreet 番号」という表記のうちstreet名(人名であることが多い)が津々浦々で被っているのだ。鈴木通りという道が青森でも、富山でも、三重でも、和歌山でも、山口でも、熊本でも確認できるようなものだ。「鈴木通り3丁目」と検索すると全国から候補が出て来るのだ。

これは日本において中村という地名がごまんと散見されるのと同じ現象ではあるが、この国で問題をより面倒にしているのが時には同じ街内で2つの鈴木通りすら存在するという事実だ。僕の住む街にも「イ.鈴木通り」「ロ.鈴木通り」という具合に絶妙なダサさを醸し出す同名使い回し通りが存在する。ここに番地が加わり「イ.鈴木通り4」「ロ.鈴木通り2」というカオス度高まる魔境が広がっている。

そして重なる2段目の地名トラップが「適当当て字の段」だ。現地文字の表記をアルファベットに改めた綴りが往々にして唯一解に収まらない。鈴木を英語表記にするとsuzukiで齟齬ない筈だが、これが人によってsudsukiになったりsuzuquiになったりthzcqiになったりと全く安定しない。加えてイロハニをabcdに直すものだから元々のカオスに拍車がかかる。a.sudsukiに行くつもりがb.suzuqhiに着いてしまう。「わたなべ社長!これはとんだスズキ違いですな!」「ノンノン、人生回り道も必要なのねん~」というテロップが見える。

 

今回の会場誤認識は完全にこの地名トラップに嵌った形となった。トラップの存在を知りつつカンファレンス登録時の微かな記憶だけを信じて住所再確認を怠ったこと・会場入り口で安直にgoogle map検索結果を信じてしまったことを鑑みると、今回は完全なるヒューマンエラーと断じざるを得ない。そしてこのヒューマンエラーに端を発し将棋倒しの様に生じたハートチリングな出来事も会場間違いさえなければ身に降りかかることはなかったと考えると、今回のところはヒューマンエラーに包含されておきたい。これで大方の「ツイてない」は一掃された。

 

残るは号泣シーン、怒号シーン、払い損だ。

そもそもこの国の人たちは初対面でのコミュニケーションが驚くほど近しい。昨日は嫁といるところで2回見知らぬ人に声を掛けられた。1回目は5人の子供を連れる中年ご夫婦だったが特に旦那さんから「君たちは結婚してるのか!?だったら子供を作ろう!とにかく子供を作るんだ!日本では2人ぐらいがメジャーか?そんなところで止まっていてはダメだ!なるべく多くだ!」と熱弁された。まさかこんにちは、元気ですか?の直後にこんな話題を吹っかけられるとは思いもよらず反応に困った僕たちははい・・・と助けを求めるように隣で微笑んでいる奥様に目を向けた。するとニコッと一言「避妊をせずにおせっせするのよ」とアドバイスを下さった。いやその顔はてっきりペリカン説提唱者かと思ったよこりゃ一本取られた。

2回目のお声がけは若者集団からだった。日本人の友達がいるという彼らはカンパーイ!!!と叫びながら新鮮なサクランボを丸々1パックくれた。「サヨナラとは言わないぜ・・・マタネ!!」と言う彼に手を振りながら、連絡先を聞きそびれたことだけが悔やまれた。

 

そんな劇近コミュニケーションに加えて、彼らは感情が即座に表面化する。公の場だろうと、赤の他人に対してであろうと、出会い頭に感情を爆発させることもできる。ここに運転マナーの悪さが乗じられ、道路上は群雄割拠の戦場と化す。渋滞中、走行中、高速道路、お構いなく窓を開け真横を向いて喧嘩しあってる。喧嘩が危険運転を呼び、更なる喧嘩を誘う。そんな国において号泣シーンも怒号シーンも言うほど珍しい光景ではない。ツイてるツイてないで言えば後者に当たり得るが、依然としてこれら場面との遭遇に特筆すべき稀少性はない。

 

最後に、どこに行っても機械はボロい。我が家でも備え付けの5.1chスピーカーは既に機能しないしエアコンも半年に一回は効かなくなるので業者を呼ばないといけないらしい。そんな国で駐車場のバーが開かなかろうが驚くに値しない。問題はその解決手段で、自分は日本人よろしく素直に券売機へ一直線に向かい精算をした。周りにいる現地人は守衛室へ行き文句を垂れていた。結果手動でバーを開けてもらえることになった。英語も通じない上イチイチ説明するのも面倒なので自分一人だけ払いっぱなしで帰って来た。これも運というより自分の問題解決力に収斂させたい。

同じ過ちを繰り返さないためには現地語を習得するという最もアンビシャスで時間を要する方法が一つ、その場で身振り手振りを交えて何とか払い戻してもらうこれまた時間と労力を要する方法がもう一つ、そして最後に一旦周りの現地人の様子を観察するという方法が一つ。恐らく今後は最後の選択肢を取ることになる。1つ目を取るなら本格的に語学学習に時間を割くし、2つ目を取るなら出川に弟子入りする。

 

結局自分の落ち度に端を発して認知バイアスにスイッチが入り、日常のダウンサイドがよく見えるだけの状態を「ツイてない」と感じるのであれば、先ずは順当にその源流を抑えにかかろうと思う。あまり自分に背負わせすぎて仮にも病むことがあれば、その時こそ駆け込み寺としてツキ先輩に登場してもらおう。