スマホ片手に浦島太郎

これ程までにSNSが発達した時代で日本昔話通りの浦島太郎状態などどう転んでも起こり得ず、自分が帰国する際に生じうる問題を想定するには現代にフィットする形で物語を刷新&シミュレーションせねばなるまい。はじまり、はじまり。

 

 

昔々、まだ若者たちがmixiでバトンを回しまくりつつ「+。+゚外見より中身重視派+。+゚」という類のコミュニティに属することで黒歴史を量産していた時代に、浦島太郎という漁師がおりました。ある日太郎が浜辺へ行くと、少年たちがハンドスピナー片手に亀を虐めておりました。

亀「うえーんうえーん」

少年1「やーいキラキラネーム!」

少年2「やーい義縷亀珠(ギルガメシュ) お前の母ちゃんめーがみー!」

太郎「おい少年たち、これはどうやら”お母さん案件”のようだな。せめて母の日には悪いニュースを届けることは避けたいものだ、分かるかな。」

 

こうして太郎は少年たちに忖度の概念を叩き込み、義縷亀珠を救いました。

 

亀「どうもありがとうございました。お礼に竜宮城へご案内します。」

太郎「え、そんな。僕からは一言もそんなお願い事してませんよ。でも、貴方がどうしてもと言うのであれば、せっかくのお誘いをお断りする方が失礼に当たってしまいますよね。」

 

こうして太郎は義縷亀珠の背中に跨ると、supremeの手綱を握り竜宮城へと向かいました。

 

太郎「やっべ海の中圏外じゃん。竜宮城ってwifiある?」

亀「織姫様はアーリーアダプターなので5G完備です。」

 

いよいよ竜宮城に近付き、煌びやかな装飾が目に入ってきます。

 

太郎「はいマジ映え。ちゃんと正面から撮りたいから真っ直ぐ入って。」

亀「foodieのSW2がマジ卍に盛れますよ。」

 

竜宮城の中に入るとヨガマット片手に織姫様がお出迎えしてくれました。

 

織姫「個室でレッスン後、オイルマッサージ有。LINE交換や食事、交際もご自由にどうぞ。」

 

こうして中へ案内されると、EDM鳴り響くホールにはダンサーが勢揃い。豪華絢爛な食事もズラリと並びました。

 

太郎「糖質はダイエットの敵だから、ご飯半分にするしん!」

織姫「#MeToo

 

Aviciiのチューンがかかると同時に「▽竜宮城」と言うピンを添えて数秒の動画をストーリーにあげたとき、太郎はふと我に返ります。

 

太郎「やっべこれ以上飲むとJKにチューしてぺろぺろ舐めちゃう。帰ろ帰ろ。」

織姫「そだねー

 

こうして太郎はお土産の玉手箱を片手に海を戻りました。片時もSNSのフィードチェックを怠らなかったので地上の様子は手に取るように把握しています。

 

twitter:@少年 突然予定なくなったーゆる募今夜浜辺で遊ぶ人

facebook:@おじいさん 本日も快晴!イワシが大量に釣れました。

instagram:@少女

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映え巡り❤️

足痛すぎだけど楽しすぎた💓

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#音楽 #フェス #ブラックコーデ #fun #fashion #friends #beach

 

地上にいても海中にいても太郎の覗き込むスマホ画面上の様子はさして変化ありません。浜辺に到着しひとまず義縷亀珠との自撮りを納めインスタに「#bye #friend」と投稿。義縷亀珠が海へ帰っていく様子を動画に納めツイッターに「It was a great deal…Thank you KAME!」と投稿。そして〆に一連の出来事をつらつらと書き下し最後に「ギルガメシュ叙事詩、もう一度読み直してみます。」と添えてフェイスブックに投稿。これにて無事太郎の竜宮城遠征が幕を閉じます。SNSに投稿するまでが遠足ですから気を抜かないように。

 

全ての職務を遂行した太郎は玉手箱の存在に気が付きました。「蓋と顔を並べて小顔効果演出ができるな、明日インスタにあげよ」と心で呟きつつ、ひとまず中を覗いてみます。するとそこには複数のアップルウォッチが入っているではありませんか。そして画面にはこんな表示がありました。

 

twitterに割いた時間:計2645時間34分52秒

facebookに割いた時間:計877時間33分28秒

instagramに割いた時間:計1398時間24分39秒

ソシャゲに割いた時間:計3667時間08分56秒

 

太郎は「これだけの時間を別のことに割いていたら、今頃どんなことを達成できていただろうか」と思いを巡らせると、何だか急に自分一人が周囲から置いてけぼりにされたような気分になり、突然塞ぎ込み、老け込んでしまいました。

 

おしまい。

 

 

結局突然年老いる顛末は不変だった。

先週奇跡的に同世代の同僚(=友達)が出張で来てくれたが為に今圧倒的リバウンドを迎え絶頂友達ロス中だ。しかしSNS上では通常通り彼らの様子を把握できるので、このロス感とこの手に取るように分かる感という矛盾を内包した共存を咀嚼したくキーボードを叩いてみたが、結局跳ね返ってきた結果は「意味もなく時間を浪費するとすぐ爺さんになっちまうよ」だった。

 

浦島太郎、思わぬ不偏性がここに。